大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)3699号 判決
原告
井上正人
ほか二名
被告
兼頭勇
第一主文
一、被告は原告井上正人に対し一五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年一一月二四日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、被告は原告井上浪夫に対し一二、三六〇円およびこれに対する昭和四二年七月二六日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三、原告井上正人、同井上浪夫のその余の請求および原告井上光子の請求を棄却する。
四、訴訟費用中、原告井上正人および同井上浪夫と被告間に生じた分はこれを三分し、その二を同原告両名、その余を被告の各負担、原告井上光子と被告間に生じた分は原告井上光子の負担とする。
第二原告らの申立て
被告は、
原告正人に対し三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年一一月二四日(本件事故発生日)から、
原告浪夫に対し三六五、九〇三円およびこれに対する昭和四二年七月二六日(本件訴状送達翌日)から、
原告光子に対し三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年一一月二四日(本件事故発生日)から、
各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え、との判決。
第三争いのない事実
一、傷害交通事故発生
とき 昭和四一年一一月二四日午後五時二〇分ごろ
ところ 大阪市港区八幡屋宝町一丁目二七八番地先交差点
事故車 足踏み自転車
運転者 被告
受傷者 原告正人(当時一〇才、右大腿骨折等の傷害)
態様 右交差点北西角付近で、原告正人と右自転車が衝突した。
二、原告らの身分関係
原告浪夫と同光子は、原告正人の父、母である。
第四争点
(原告らの主張)
一、被告の責任原因(民法七〇九条)
原告正人が前記交差点北西角のところを角沿いに北から西に曲がろうとしたとき、右交差点の東西の道路(幅員約七メートル)の北側沿いを西から東に向かつて進行してきた自転車が出合いがしらに原告正人に衝突し、その前輪より同原告をその場に転倒させたものである。
ところで、自転車を運転する者は、絶えず前方を注視し事故を未然に防止すべき義務があるところ、右交差点には信号がなかつたのであるから、被告はこの場合、十分前方を注視して速度を落し、ベルを鳴らして相手方に注意するなどの義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然疾走した過失により、右の事故を起したものである。
二、原告らの損害
(1) 原告正人の治療、状況、後遺症
事故後ただちに笹尾医院に入院し、昭和四一年一二月四日退院するまで、腹部から大腿部まで両側ともギブス、さらに右側は足の先までギブスをはめたため、まつたく身動きができず、寝たままの状況であつた。退院後も笹尾医師の往診による治療を続けていたが、この間も右同様のギブスをはめていたため、身動きはまつたく不可能であり、大小便一切は母の原告光子が取つていた。昭和四二年二月一二日に骨折部分がゆ合したので、ようやくギブスを取りはずしたが、なお笹尾医師の往診を受け患部の指圧治療を行ない。同月二二日母に伴われて高松の母の実家に行き、毎日患部を温める療養を続けるとともに、柔道整復師原雪信よりマッサージを受け同年四月五日治療を打切つた。
昭和四二年四月七日の始業式から再び登校しているが、現在も右すねが相当左側に移動し、びつこを引いている。主治医は、かような状態が消失するためには、今後少なくとも三年くらいの期間が必要であるといつている。
(2) 数額
(イ) 原告正人(慰謝料) 三〇〇、〇〇〇円
前記受傷部位・程度、治療状況、後遺症をしんしやくすべきである。
(ロ) 原告浪夫 計三六五、九〇三円
(A) 笹尾医院
入院付添費 九、〇〇〇円
治療費 二二、六七〇円
(健康保険外)
入院雑費 三〇、〇〇〇円
(B) 高松における指圧治療費 四、二三三円
(C) 慰謝料 三〇〇、〇〇〇円
子の原告正人が将来不具となるかも知れないという危ぐと右傷害に対する治療のため、心身ともに疲労の極に達した。
(ハ) 原告光子(慰謝料) 三〇〇、〇〇〇円
算定根拠は(ロ)(C)と同じ。
(被告の主張)
被告は、本件交差点に向かつて西から東に幅員約七メートルの道路左(北)側を進行中、交差点にさしかかつたので徐行し左右の安全を確認した。そのとき北側の幅員約五メートルの道路上を後ろ向きで疾走する原告正人を発見したので、危険を感じ「危い」と注意すると同時にブレーキをかけ停止し片足をついた。その直後原告正人が右折し、停止中の自転車前輪に左前方から突進して衝突転倒した。
第五証拠 〔略〕
第六争点に対する判断
一、被告の責任原因(民法七〇九条)
〔証拠略〕によると、つぎの事実が認められ、反対の証拠ははたやすく信用しがたい。
(1) 本件交差点は、幅員八メートルのコンクリート舗装された平たんな東西道路が、幅員六メートルの未舗装南北道路と直角に交差する場所であり(別紙現場見取図参照)付近には商店や民家が立ち並んでいて左右の見通しはあまり良くなく、交通信号機は設置されていない。交通量は少ないが、近くに遊び場がないため、付近では子供たちがよく遊んでいた。
(2) 本件事故当時、交差点北西角のニユースター衣料品店では、店舗の南側路上に約一・五メートルはみ出した商品をおおうため、上方にテントを張り東端にビニール製日よけをぶらさげていたが、その日よけの南に横幅〇・七五、高さ一・五メートルの看板が立ててあつたので、東西道路の有効幅員は約六メートルにせばめられ、かつ北側道路に対する見通しはきわめて悪くなつていた(別紙現場見取図参照)。
(3) 被告は、日ごろから右交差点を通つて通勤していたが、当時帰宅のため西側道路左側から約三メートル内側を東進中、右ニユースター衣料品店前にさしかかり右立看板まで約三メートルに接近したとき、原告正人が北から西に向け右折する格好でビニール製日よけのかげから走り出てきたのを立看板越しに認め、危険を感じて急ブレーキをかけたところ、約〇・三メートルのスリップこんを残し立看板の手前で停車すると同時に、自転車の前輪と原告正人の内股付近が衝突した。
(4) 原告正人は友人らと徒競争をしていたため、右交差点北西角を北から西に右折するにさいし、西側道路に対する注意をまつたく払わないまま右立看板すれすれに西に向けて思い切り走り出たが、その瞬間右自転車を発見して驚き避ける間もなく衝突し、その場に転倒受傷した。
以上認定の事実にもとづき、被告に運転上の過失が認められるかどうかにつき判断するに、本件交差点付近は商店や民家が立ち並び子供たちがよく遊んでいる場所であり、しかも当時はニユースター衣料品店の日よけなどにより西側道路から北側道路に対する見通しはきわめて悪くなつていたのであるから、自転車に乗り東進して交差点に入ろうとする被告としては、遊びに夢中のあまり北側道路から突然飛び出してくる子供のありうることに思いをいたし、最徐行するのはもとより、前記立看板の右側に十分な間隔を置いて通過すべき注意義務があるというべきところ、被告は急停車の結果約〇・三メートルのスリップこんを残すほどの速度で、しかも道路左端から約三メートル内側(そのまま直進すれば立看板の右側に一メートル足らずの間隔しか残らない)を進行して交差点内に入ろうとしたのであるから、右の注意義務を尽くさなかつたものと認めるのが相当であり、この点の過失が本件事故の一因をなすことは、前認定の事実に照らし明白である。
二、原告らの損害
(1) 原告正人の治療状況、後遺症
びつこの点を除き原告ら主張のとおり(〔証拠略〕)。
(2) 数額
(イ) 原告正人(精神的損害) 五〇〇、〇〇〇円
前記受傷部位・程度、治療状況、後遺症をしんしやくした。
(ロ) 原告浪夫 計四一、二〇三円
(A) 笹尾医院
入院付添費(原告光子付添い) 一一、〇〇〇円
一日一、〇〇〇円×一一(原告光子本人尋問の結果、経験則)
治療費 二二、六七〇円
(甲三)
入院雑費 三、三〇〇円
一日三〇〇円×一一(経験則)
(B) 高松における指圧治療費 四、二三三円
(甲四)
(C) 精神的損害 認められない。
原告正人の受傷部位・程度は前記のとおりであるから、親として子が死亡した場合に比しいちじるしく劣らない精神的苦痛を受けたものとは認めがたい。
(ハ) 原告光子(精神的損害) 認められない。
(ロ)(C)と同じ
三、過失相殺(七〇パーセント)
前認定の事故態様に原告正人の年令を考えあわせると、本件事故については被害者たる原告正人に重大な過失があると認められるので、被告が原告正人および同浪夫に対し賠償すべき損害額は、前記各損害の三〇パーセント(原告正人に対し一五〇、〇〇〇円、原告浪夫に対し一二、三六〇円)にとどめるのが相当である。
四、結論
被告は、原告らの本訴各請求中、
原告正人に対し一五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年一一月二四日から、
原告浪夫に対し一二、三六〇円およびこれに対する昭和四二年七月二六日から、
各支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の限度で支払い義務を負担する。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷水央)
〔別紙〕 現場見取図
<省略>